RFIDを使ってみよう 実践編(2-3)
作成日: 2005/11/2  最終更新日: 2005/11/2



概要

このページの内容は,Software Design 2005年2月号 pp.76-85に掲載された, 「RFIDを使ってみよう 実践編2」をHTML化したものです.分量が多いため,4つのページに分割してあります.本文中の情報は,特に記載がない限り「2004年12月」時点のものです.

ここでは,アンチ・コリジョン機能を備えた高機能なRFIDリーダの活用法と,アンテナを手軽に自作してタグの読み取り範囲を拡大する方法について紹介します.関連プログラムなどを公開している,RFIDを使ってみよう(複数タグ編)RFIDを使ってみよう(13.56MHz アンテナ編)も参考にしてください.

目次




手軽なアンテナ製作(準備編)
1.概要

RFIDシステムの利用目的によって,適切なタグの読取範囲はさまざまに変わってきます.たとえば,スタンドにCDを立てかけると音楽が再生されるようなシステムでは,スタンド周辺の小さい範囲だけのタグを読み込む必要があります.一方,本にタグを貼り付けて,本棚からの出し入れを監視するようなシ ステムでは,本棚全体のタグを読取範囲とする必要があります.

このようにタグの読取範囲を調整するためには,リーダに接続するアンテナの形状を変更する必要があります.アンテナは市販の純正品を購入 することもできますが,一般にそれほど多くのサイズは販売されておらず,価格も一般に数万円以上と安価とはいえません.アンテナを自作することが出来れば,タグの読み取り範囲を目的にあわせて手軽に調整できるため,RFIDシステムの応用範囲は大きく広がります.そこで,ここでは,前章で紹介した,TI 製 S6350 Midrange Reader Moduleを例として,13.56MHz帯用のRFIDアンテナの作成方法について紹介します.

実のところ,正確にアンテナをチューニングするためには,LCRメーター,オシロスコープ,ファンクションジェネレータ,アンテナアナライザなどさまざまな測定器が必要となるのですが,こうした機材を揃えるのは個人ユーザには敷居が高すぎます.

そこで,今回はこうした計測機器を利用せずに,個人ユーザが手軽にアンテナを製作できる簡易的な方法を説明していきます.図1に,製作するアンテナの完成図を示します.

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図1 製作するアンテナの外観


 
2. リーダーモジュール

S6350 Midrange Reader Module は,前章で紹介したHI-F Midrange Readerの中に搭載されているRFIDリーダモジュールです.HI-F Midrange Readerは,アンテナを接続するための端子が直接外部に出ていないため,ここでは単体のリーダモジュールを利用することにします(※HI-F Midrange Readerを分解すれば,アンテナを取り付けることは可能です).

S6350 Midrange Reader Moduleは,価格が一個当たり\16,000とかなり安価な反面,シリアル端子や電源端子などが搭載されていないため,簡単な接続用基盤を自作する必要があります(図2).

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図2 S6350接続基盤の外観  

ここでは,外付け回路の実装に必要な部品リスト,及び基本的な回路図と基盤配置図について紹介します.非常にシンプルな回路ですので,電子工作に不慣れな人でもそれほど苦労せずに組み立てることができると思います.ここで紹介している部品は一般的なものばかりですので,秋葉原やWebの通信販売(秋月電子通商 など)で容易に揃えることが可能です. 必要な部品を以下にリストします.

  • 7805 (レギュレータ)
    • 5Vに電源を安定化します
  • セラミックコンデンサ(0.1uF x 2)
    • 7805と一緒に利用し,電源ラインのノイズ除去を行います.
  • 2.1型DC端子(基盤接続用)
    • ACアダプタを接続するための端子です.
  • 9ピンシリアルコネクタ(メス,基盤接続用)
    • シリアルケーブルを接続するための端子です.
  • ピンヘッダ(メス,16ピン)
  • ピンヘッダ(オス,16ピン)
    • S6350モジュールと外付け回路を接続するために利用します.上下に重ね合わせるような形で接続します.なお,ピンヘッダは通常は40ピン程度の単位で販売されており,カッターなどで任意のピン数に切り取って利用する形になります.
  • ピンヘッダ(2ピン)
    • アンテナと接続するためのコネクタとして利用します.
  • ユニバーサル基盤
    • 部品を配置するために利用します.
 
図3 リーダー接続部回路図&基盤配置図 
(CADデータは筆者のWebページからダウンロードできます.)



3. 回路と数式

それでは,アンテナ作成の準備として,アンテナの等価回路や基本となる式について説明します. 今回作成するアンテナの等価回路は下図のようになります.ここで,インダクタンス(L)はアンテナコイルの線材やサイズ,形状で決まります.抵抗(R)とキャパシタンス(C)は,別途作成する調整用のユニットで設定します.

図4 アンテナの等価回路
次に,アンテナの作成に関係する基本的な式について説明します.アンテナの共振周波数(F)は以下の式で求めることができます.

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式1
  • F = 周波数(Hz)
  • L = インダクタンス(H)
  • C = キャパシタンス(F)
式1の要素のうち,インダクタンスはアンテナコイルの線材とサイズ,形状などから,式2を用いて求めることができます.

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式2
  • L = インダクタンス(H)
  • k = 長岡係数
    • コイルの直径[d]と長さ[l]から係数表 により計算.
  • μ = 真空の透磁率 * 比透磁率
    • 真空の透磁率 は4π * 10 -7
    • 比透磁率はコアの素材により変更.空気 ≒ 1.0
  • r = コイルの半径
  • S = コイルの断面積
    • 円形のコイルの場合は,π * r * r
    • 長方形の場合は (r * 2) * (r * 2)
  • n = コイルの巻き数
  • l = コイルの長さ(厚さ)
    • 線材の太さ[w] * コイルの巻き数[n]
今回必要な周波数は1356000Hz(13.56MHz)となるので,インダクタンスが確定すれば,式1を式1'のように展開して,適切なキャパシタンスの値を求めることができます.

[image]

式1'
  • F = 周波数(Hz)
  • L = インダクタンス(H)
  • C = キャパシタンス(F)
また,アンテナのQ(品質係数)は,以下の式で求めることができます.この式は主に必要な抵抗を計算するために利用します.

[image]

式3
  • Q = 品質係数
  • L = インダクタンス(H)
  • F = 周波数(Hz)
  • R = 抵抗(Ω)

アンテナの作成に当たっては,これら三つの式を中心として利用し,必要なインダクタンス(L),キャパシタンス(C),抵抗(R)の値を決定することになります.




4. 材料

それでは,アンテナ作成に利用する材料について説明します(図5).今回は,東急ハンズや秋葉原などで比較的手軽に入手できる製品を利用します.価格についても,アンテナを一つ作成するのに必要な材料費は1000円以下で収まると思います.

  • 材料
    • エナメル線 (太さ0.2 - 1mm 程度 * 数m)
    • ユニバーサル基板 (少量)
    • 抵抗 (1/4W,1k〜20k程度,抵抗値は式を用いて計算)
    • セラミックコンデンサ (1〜100pF程度,キャパシタンスは式を用いて計算)
    • トリマーコンデンサ (10〜60pF程度の範囲で可変.調整用に必要)
    • 同軸ケーブル(50Ω)
      • 入手が難しければシールド線でも可.
    • ピンソケット(2ピン*2個))
      • 抵抗・コンデンサを手軽に変更するために利用.あると便利.
    • スチレンボード
      • 位置合わせ用.あると便利.
    • 半田
    • ビニールテープ(セロテープ)
  • 工具
    • ニッパー
    • 半田ごて
    • 紙やすり
[image]
図5 アンテナの材料一覧



コラム1. 長距離リーダーモジュール

TI製の13.56MHz帯リーダーモジュールには,S6350 Midrange Reader Moduleの他に,S6500 Longrange Reader Moduleが存在します.S6350の出力は約120mW程度で,通信距離は10cm程度が限界なのに対し,S6500は0.5〜4W以上の出力を持ち,通信距離 も1m程度に伸ばすことができます.机の上などにおかれたタグを認識する分にはS6350で十分ですが,書籍管理システムなど,ある程度の読み取り距離が 必要な場合は,S6500を利用する必要があります. このように,S6500はタグの読取可能距離が長い点が魅力的ですが,価格は\180,000とかなり高価になります(※2003年12月現在,マイク ロ・トーク・システムズより購入).アンテナ作成の基本はどちらを利用しても共通なのですが,S6500を利用するためには,抵抗やコンデンサの耐圧を高い ものにするなど配慮が必要となります.また,電波法の規制なども考慮する必要がでてきます. 今回の記事では価格面と扱いやすさを考慮し,S6350の利用を前提として,説明を進めます.

 




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