RFIDを使ってみよう 実践編(2-4)
作成日: 2005/11/2  最終更新日: 2005/11/2



概要

このページの内容は,Software Design 2005年2月号 pp.76-85に掲載された, 「RFIDを使ってみよう 実践編2」をHTML化したものです.分量が多いため,4つのページに分割してあります.本文中の情報は,特に記載がない限り「2004年12月」時点のものです.

ここでは,アンチ・コリジョン機能を備えた高機能なRFIDリーダの活用法と,アンテナを手軽に自作してタグの読み取り範囲を拡大する方法について紹介します.関連プログラムなどを公開している,RFIDを使ってみよう(複数タグ編)RFIDを使ってみよう(13.56MHz アンテナ編)も参考にしてください.

目次




手軽なアンテナ製作(実践編)
1. 製作手順
それでは,実際にアンテナを作成する過程を参考にしながら,アンテナ作成の手順について説明していきます.
1. アンテナコイルの製作

まず,必要なアンテナのサイズを決めます.ここでは,「395mm * 325mm」の長方形サイズとします.次に,スチレンボードをサイズにあわせて切り取り,周辺の枠に沿ってエナメル線を配置して,セロテープで仮止めしま す.ここでは,直径「0.4mm」のエナメル線を利用します.最後に,調整部ユニットを接続するために,エナメル線の一辺の中央を1cm程度切り取りま す.

次に,アンテナコイルのインダクタンスを計算します.先程の式に線材の径やコイルのサイズを代入していけばよいのですが,いちいち計算す るのは面倒です.そこで,アンテナコイルのインダクタンスを手軽に計算できるCGIプログラムを作成してみました.プログラムはこちらから利用できます.

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図1 インダクタンス計算用CGI 外観

ここでは,プログラムの簡単な使い方を紹介します. まず,「線材の太さ」をmm単位で入力します.ここでは「0.4」となります. 次に,コイルの形状を「円形」か「長方形」から選択し,円形ならコイルの直径を,長方形ならコイルの縦横の長さをmm単位で入力します.ここでは,「長方形」を選択し,幅を「395」,高さを「325」と入力します. 最後に,計測の対象に応じて,「計算モード」を選択し,「インダクタンス」か「巻き数」のどちらかのデータを入力します.ここでは「巻き数からインダクタンスを計算する」を選択し,巻き数を「1」と入力します. これらの入力が完了したら,「計算」ボタンを押せばこのコイルの「インダクタンス」が表示されます.ここでは,「1.42」uHという値になりました.

なお,インダクタンスは,約5uH以下におさめないと,必要なキャパシタンスの値が小さくなりすぎて,調整部の製作が難しくなるようですので,注意してください.

2.調整部の製作

アンテナコイルのインダクタンスが確定したら,キャパシタンスと抵抗値を調整するための簡単なユニットを製作します.まず,必要なキャパシタンスと,抵抗値を計算します.キャパシタンスについては,式1'を利用すれば容易に求められます.

抵抗値については,先程の式3を中心に計算します. 最終的には,50Ω程度の負荷(リーダに相当)をアンテナに接続した際に,全体のQが20以下になるように抵抗値を設定する必要があります.そこで,まず Q=20として式3を解き,最終的な回路の並列抵抗(Rpar)を計算します.次に,現在のアンテナのQを50程度と仮定して式3を解き,現在のアンテナ の抵抗(Rpar,antenna)を計算します.これらの値から,並列抵抗の計算式を利用して,調整部に利用する抵抗を導きます(R=1/(1/Rpar-1/Rpar,antenna)).

アンテナの効率を最大限に高めるためには,Qを計測しながら抵抗値を調整する必要があるのですが,Qの計測にはファンクションジェネレータやオシロスコープなどの高価な機材が必要となるため,今回は扱いません.

これらの式についても,計算を簡単に行えるCGIプログラムを作成してみました.こちらから利用できます.

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図2  抵抗値&キャパシタンス計算用CGI 外観

このプログラムの使い方はシンプルです. まず,動作周波数をHz単位で入力します.ここでは,「13560000」となります. 次に,先程計算したインダクタンスをuH単位で入力します.ここでは,「1.42」となります. これらの入力が終わったら,「計算」ボタンを押すと,抵抗値とキャパシタンスが計算されます.ここでは,抵抗が「4032.08」Ω,キャパシタンスが「97.01」pFとなりました.

これらの結果をもとにして,調整用ユニットを製作します.近似値をとって,抵抗は3.9kΩを,コンデンサは66pFのセラミックコンデン サと,30pFのトリマーコンデンサを組み合わせて利用します.(トリマーコンデンサは最終的なアンテナの調整のために必要になります.)そして,ユニ バーサル基板上にセラミックコンデンサ,トリマーコンデンサ,抵抗を並列に半田付けし,1で切り取ったコイルの部分に半田付けして接続します.

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図3  調整部ユニットの外観
3.ケーブルの接続
次に,アンテナとリーダを接続する同軸ケーブルを,アンテナの調整部の対辺に左右対称になるように取り付けます.このケーブルの接続位置により,アンテナ のインピーダンス(信号の流れやすさ)が変わってくるのですが,最適な位置を導くにはアンテナアナライザなどの専門的な機材がないと難しいようです.ここ では,暫定的な方法として,両コーナー付近にケーブルを半田付けして接続します. 以上で,基本的なアンテナ製作作業は終了です.
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図4 同軸ケーブルの接続の様子
4. アンテナの調整

最後に,調整ユニットのトリマーコンデンサを利用して,アンテナの調整を行います.まず,アンテナをリーダーに接続し,リーダーをPCにシリアルケーブルで接続します.アンテナの読み取り範囲にはRFIDタグを3〜5枚程度おいておきます. 次に,前章で紹介したサンプルアプリケーションを立ち上げ,「接続」→「連続読取」を行います.

この状態で,トリマーコンデンサをゆっくり回していくと,タグの読み取り状況が変化します.すべてのタグが安定して読み取れるポイントが見つかったら,その位置でトリマーコンデンサを固定します.

もしタグの読み取り状況が改善されない場合は,周囲のアンテナコイルにタグを近づけてみてください.近づけても全く反応がない場合は,リー ダーやサンプルアプリケーションが内部的にハングアップしている可能性がありますので,それらを再起動してください.タグを近づけると反応がある場合は, 部品の選定に問題がある可能性が考えられます. 抵抗・コンデンサの選択が正しいか,もう一度確認してみてください.

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図5  S6350 Readerとアンテナの外観(最終調整の様子)


2. 応用

こうしたアンチ・コリジョン対応のRFIDリーダーとタグを組み合わせた応用は,店舗における棚の商品管理などをはじめ,さまざまな可能性が考えられます.

ここでは,少し変わった事例として,慶應義塾大学の渡邊恵太氏らが開発しているActivateSheetについて紹介します. ActivateSheetは,タブレットディスプレイ上にRFIDタグを仕込んだ複数の透明なシートを重ね合わせることで,さまざまなフィルタ的な操作 を実現するシステムです.たとえば,「天気」を表すシートを乗せると,大局的な天気情報を表示します.その上に,関東などの地域シートを重ね合わせること で,地域を絞り込んだ詳細情報を表示することができます.また,ディスプレイ用のプライバシフィルタ(偏光フィルタ)を重ねた場合のみ,ディスプレイ内の 秘密の情報を参照できる,といった応用も考えているようです. このように,シートを重ねる,という直感的な操作で,さまざまなフィルタ操作を行える点が特徴です.

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図6 ActivateSheetの概念図

 



3. まとめ

ここでは,TI製のS6350 Midrange Reader Moduleを例として,13.56MHz帯のアンテナの手軽な製作手法について紹介しました.高価な計測器を利用していないため,正確にチューニングさ れたアンテナを作るのことはできませんが,個人的な試作システムには必要十分な感度のアンテナを製作できると思います.アンテナデザインのより詳細な情報 については,HF Antenna Design Notes などを参考にしてください.




4. おわりに

今回は,連載の一区切りということで,本格的なRFIDタグ/リーダを利用した実世界システムの構築について説明してきました.タグの読み取り範囲を任意 に調整し,複数タグを読み取り可能なRFIDリーダを利用することができれば,RFIDをさまざまなシステムに組み込んで活用することもできると思いま す. 今回の連載をきっかけに,RFIDを利用したシステム製作に興味を持っていただけたなら幸いです.是非,RFIDを利用して面白い/実用的なシステム製作 に挑戦してみてください.




コラム2: LCRメーター

今回は,基本的に計測器を一切使わない簡易的なアンテナ設計方法について説明してきましたが,ここではアンテナ作成に役立つ機材として,「LCRメーター」という測定器を紹介します.

LCRメーターはその名のとおり,L(インダクタンス),C(キャパシタンス),R(抵抗)を一台で測定できる計測器です.キャパシタンスと 抵抗は2000円程度のテスターでも計測できるものも多いのですが,インダクタンスの計測は数万円以上するテスターでもほとんど行うことができないため, インダクタンスの計測を手軽に行える点がLCRメータの特徴となります.

LCRメーターは安いものでは1万円程度からありますが,このランクではインダクタンスの分解能が1uH程度のものが多く,uH単位の計 測では精度的に不安があります.3〜5万円程度の価格帯では0.1uH程度の分解能を持つものがありますので,購入する場合はこのクラスをお勧めします. 図に筆者の持っているLCRメーターの外観を示します.最小分解能は0.1uHで,秋葉原の東洋計測器で約4万円で購入しました.(これより上位の機種に なると,据え置き型の20万円以上する製品になってしまうようです.)

一般の電子工作には必ずしも必要な機材ではありませんが,自分でさまざまなRFIDシステムを構築していきたい,という場合には持っていて損のないデバイスだと思います.

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図7 LCRメーターの外観



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