RFIDを使ってみよう 概要編(2) 〜RFIDの種類〜
作成日: 2005/1/19  最終更新日:2005/11/2



概要

このページの内容は,Software Design 2004年11月号 pp.88-99に掲載された, 「RFIDを使ってみよう 概要編」をHTML化したものです.分量が多いため,三つのページに分割してあります.本文中の「現在」などは「2004年9月」を指します.

ここでは,RFIDの種類についてとりあげます.RFIDタグには,利用する無線周波数帯や,形状,機構,機能などの面で,さまざまな種類が存在します.ここでは,それぞれの特徴について詳しく説明します.

目次




RFIDの種類
1.アクティブタグとパッシブタグ

まず,一つ目の大きな違いとして,タグに電池を内蔵するかどうか,という点があげられます.前節でも紹介したとおり,RFIDタグは非電源で動作することが一つの大きな特徴となっていますが,実際には電池を内蔵しているタグも存在します.電池を内蔵していないタグは「パッシブタグ」,電池を内蔵しているタグは「アクティブタグ」と呼ばれます(図3,図4).

パッシブタイプのRFIDシステムでは,リーダからの電磁誘導やマイクロ波を用いてタグに電源を供給し,同時にIDなどを読み書きします.タグの読取可能範囲(リーダのアンテナからの距離)は,数cm〜最大数m程度です.パッシブタグは一般的に小型化・薄型化が容易で,タグが物理的に破損しない限り,半永久的に利用することが可能です.

アクティブタイプのRFIDタグは,電池を内蔵しており,タグ自身が微弱無線などで一定時間(1秒〜数分程度)おきにIDを発信します.IDの読取可能範囲は数m〜最大数十m程度となり,パッシブタイプと比較して大幅に広くなります.一方,内蔵する電池のため,タグの小型化は難しく,コストも高くなります.また,3〜5年程度の電池寿命があるため,永久に使えるわけではありません(電池寿命は通信頻度などにより異なります.). なお,これら二種類の他に,最近はセミパッシブ・タイプという種類も登場しています.これはパッシブタイプと同様に,リーダからの通信にタグが応答する形を取りますが,電池を内蔵することで通信距離を1m〜数m程度に伸ばすことが可能です.

近年,物流や電子マネーなどの分野で話題になっているタグのほとんどはパッシブタイプのものであり,今後もパッシブタグが主流となると考えられます.一方,RFIDを用いて新しいサービスやインタフェースを開発するという点で考えると,両タイプでは特にIDの読み取り可能範囲が大きく異なるため,システムの目的(どれくらいの範囲のタグを認識対象とするか)に応じて使い分ける価値がでてきます.たとえば,何かを「置く」とインタラクションが起こるようなシステムでは,パッシブタイプのタグを用いる方がよいですし,ユーザが一定の場所に「いる」ことを認識するシステムでは,アクティブタイプのタグを用いる方が適切な場合が多いでしょう.

中央:パッシブタイプのタグ(135KHz帯),右:アクティブタイプのタグ
図3: アクティブタイプとパッシブタイプのタグの例

パッシブタイプのリーダー
(Texas Instruments S2000 Micro Reader )

アクティブタイプのリーダー
(RF Code Spider Reader )

図4: アクティブタイプとパッシブタイプのリーダーの例
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2. アンチ・コリジョン

二つ目の大きな違いとしては,複数のタグを同時読取できるか,という点です.この機能を実現する仕組みを,「アンチ・コリジョン」と呼びます.複数のタグの同時読取機能は,バーコードと比較した場合のRFIDシステムの利点として頻繁に取り上げられますが,アンチ・コリジョン機能が搭載されていない場合は,一度に読み取れるタグは一つだけになってしまいます.(この場合,同時に二つ以上のタグが読取可能範囲にあると読取エラーになります.)

次に,アンチ・コリジョン機能の動作について,簡単に説明します.アンチ・コリジョン機能を持つRFIDシステムにおいても,実際には複数のタグを一括して読み込んでいるわけではありません.同時に複数のタグを検出した場合に衝突を検知する機能が働き,検索条件を指定して再度検索を行うようになっています.たとえば,13.56MHz帯のRFIDシステムなどで一般的に利用されている,ALOHA方式のアンチ・コリジョン機能の動作は以下のようになります(図5).

  1. まず,リーダはタグのメモリ内の特定のビット(1〜4bit程度)を「タイムスロット」として指定します.
  2. タグは,タイムスロットのデータに応じて,応答のタイミングをずらします.たとえば2bitのタイムスロットを利用する場合,「00, 01, 10, 11」の四種類のデータ毎に,異なるタイミングでリーダに応答を返します.
  3. 各タイミングごとに,同時に応答したタグが一つのみの場合,そのタグのデータは正常に受信することができます. リーダはそのタグに対して,一定時間応答しないスリープ状態にするコマンド(Sleep/Mute)を送信します.
  4. 各タイミングごとに,同時に複数のタグが応答した場合,衝突(コリジョン)が検知されます.この場合,メモリ内の別の2ビットをタイムスロットとして,2の処理を繰り返します.
  5. コリジョンを起こさずに全てのタグが読み取れれば,最後にリーダはタグをスリープ状態から復帰させるコマンド(Wake Up)を送信し,一連の処理を終了します.

このように,アンチ・コリジョン機能を搭載したRFIDシステムでは,同時に読み取れるタグが一つになるまで,何度もタイムスロットを変更して,再検索を繰り返します.よって,(1)一定個数のタグを読み取る場合でも,全てのタグを読み取るまでにかかる速度は異なる,(2)一度に読み込むタグの数が増えると,読取にかかる時間は単純計算以上に増加する,といった特徴が生まれてきます.

アンチ・コリジョン機能は,高度なバーコードとしての役割を期待されている物流の世界では欠かせないものです.たとえば,スーパーで商品をカートに入れたまま会計できる,といった類のシナリオを実現するためには,アンチ・コリジョン機能が必須となります.一方,Suicaのような電子マネーや認証用途に使われているRFIDシステムの場合,同時に複数タグの認識を行うことは,誤動作を発生させる要因ともなりますので,アンチ・コリジョン機能を搭載していないケースもあるようです.

また,アンチ・コリジョン機能を持つRFIDシステムは,未搭載のシステムよりも一般に価格が高くなります.個人ユーザーがRFIDシステムを作る場合においては,複数のIDを同時に認識する必要がなければ,アンチ・コリジョン機能を搭載しないリーダを選択してもよいかもしれません.

図5: アンチ・コリジョン機能の動作の流れ
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3. 利用する無線周波数帯

次に,RFIDシステムで利用される無線周波数帯について説明します.前節では,周波数帯によってタグへの電力の供給方法が異なることを説明しましたが,それ以外にもさまざまな一長一短の特徴が存在します.ここでは,RFIDシステムで主に利用される,125k〜135kHz帯,13.56MHz帯,2.45GHz帯,860M〜960MHz帯(UHF帯)の四つの周波数帯について,それぞれの特徴や利用形態をまとめていきます.

◆125k〜135kHz帯

125kHz〜135kHz帯を利用するRFIDシステムは,1980年代から工場のFA分野などで利用されており,最も歴史のあるRFIDシステムです.無線通信には電磁誘導方式を利用し,電池を内蔵しないパッシブタイプが基本となります.この帯域のタグは,心棒状に巻いたコイルをアンテナとして利用します(図6).このため,タグのコストは他の帯域に比べて高くなってしまいます1.たとえば,100万個オーダーの場合でも1個あたり100円程度までしか下がらないようです.通信可能距離は最大で1m程度となります.この帯域の利点としては,無線の指向性が広いため障害物を回り込みやすく,金属や水などの影響を比較的受けにくい点があげられます.逆に欠点としては,生活ノイズ(蛍光管のインバータ・ノイズなど)の影響を受けやすい点や,通信速度が遅い点があげられます.

こうした特長などから,125kHz〜135kHz帯のタグは,金属や水分を多く含むものに対して利用されることが多いようです.たとえば,「スキー場のリフト券(電子チケット)」,「回転寿司の皿(精算用)」,「家畜への埋め込み(生産管理など)」,「人体への埋め込み(認証用途など)」,「イモビライザー(自動車の盗難防止装置)」,などに利用されています.

※113.56MHz帯以上のタグではフィルム上にアンテナを形成することが一般的です.

図6: 125kHz〜135kHz帯のRFIDタグ
(Texas Instruments TI-RFID トランスポンダ)

◆13.56MHz帯

13.56MHz帯を利用するRFIDシステムは,現在最も幅広く利用されています.無線通信には電磁誘導を利用し,電池を内蔵しないパッシブタイプの利用が中心です. 125k〜135kHz帯と同様に,タグには電磁誘導のためのアンテナコイルが必要となりますが,周波数帯が高い分コイルの長さが短くてすむため,フィルム上にアンテナを形成することが可能です(図7).このため,タグのコストは大幅に安くなります.現時点では100個オーダーでも100円程度の価格で入手することができますし,100万個オーダーで10数円,1億個オーダーでは10円程度まで下がるようです2.通信距離は最大で1m程度となります.この帯域のタグは,125kHz〜135kHz帯のタグと比較すると生活ノイズに強くなります.一方,磁界が金属に遮られてしまうため,タグが金属に密着したり,タグとリーダの間に金属が入ると通信が難しくなるという欠点があります.

こうした特長などから,13.56MHz帯のタグは,多数のタグを利用する必要がある商品管理システムなどに利用されることが多いようです.たとえば,図書館における書籍管理や,小売店などでの商品管理(主に実証実験段階)などに利用されています.さらに,SuicaやEdyなどに採用されているソニーのFeliCa規格でも,この周波数帯が利用されており,現時点では最も幅広く利用されている周波数帯域といえます.

※2小売店で売られている全ての製品にタグをつけるためには,5円程度の価格が一つの目安と考えられていますが,将来的にはこの価格も達成可能と見込まれています.

図7: 13.56MHz帯のRFIDタグ (Texas Instruments Tag-it

◆2.45GHz帯

2.45GHz帯を利用するRFIDシステムは,ここ数年で認知度の高まったものです.この帯域は無線LANやBlueTooth,電子レンジなどで利用されるため,利用環境によっては干渉が生じる問題がありますが,現在は周波数ホッピング(FHSS: Frequency Hopping Spread Spectrum)方式の採用などが認められたため,電波干渉は回避しやすくなっています3

無線通信には,マイクロ波方式を利用しており,パッシブ・タイプとセミパッシブ・タイプが存在します.2.45GHz帯のタグでは,ポール状(ダイポール)のアンテナを利用します.アンテナは6cm程度の長さで,フィルム上に実装することが可能であり,価格は13.56MHz帯とほぼ同等程度に安価となります(図8).通信距離は最大で約2mとなります. 2.45GHz帯のタグの利点としては,アンテナの性質上,タグやリーダ/ライタの形状を小型化しやすい点があげられます.一方,欠点としては,電波が水に吸収されやすい点,電波の直進性が高いため障害物に弱い点などがあげられます.たとえば,タグとリーダの間に,水分を多く含む人や木材などが入ると,タグを認識できなくなる可能性があります.また,金属に対しては電波が反射してしまうため,金属の陰に隠れたタグが認識できなかったり,逆に予想外の位置のタグを認識してしまったりすることがあります.

2.45GHz帯のタグは,まだ実際に利用されている分野は少ないですが,通信距離の長さとタグとリーダ/ライタの小ささから,今後の発展が期待されています.

※3周波数ホッピング方式とは,利用する周波数帯をいくつかのチャネルに分割し,一定の周期で周波数を切り替えながら(ホッピング),通信を行う方式です.電波干渉がある場合に,通信チャンネルを切り替えることで回避が期待できます.

図8: 2.45GHz帯のRFIDタグ(日立製作所 μチップ

◆860MHz帯〜960MHz帯(UHF帯)

860MHz帯〜960MHz帯(UHF帯)のRFIDシステムは,最も新しく登場したものですが,欧米の大手流通企業の実証実験で相次いで採用されるなど,急速に注目度が高まっています.無線通信には,マイクロ波方式を利用しており,パッシブ・タイプとセミパッシブ・タイプが存在します. UHF帯の利点は,通信距離が最大5m程度と最も長い点です.加えて,2.45GHz帯に比較した場合は,電波が回折しやすいため,障害物を回り込みやすい点も長所となります.逆に欠点としては,タグのサイズがかなり大きくなる点が上げられます.具体的には,ポール状(ダイポール)のアンテナで約16cm程度と,2.45GHz帯のアンテナの3倍弱の長さが必要になります.また,日本では電波法の関係上,現時点ではUHF帯のタグは利用することができません.この点に関しては,2005年には電波法が改正され,利用可能になると見込まれています.

UHF帯のタグは,アメリカでは既に空港のコンテナ管理などに利用されています.また,大手流通企業の実証実験でも採択されるなど,特に物流の分野における発展が期待されています.

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4. さまざまなタグの形状

RFIDタグには,用途に応じてさまざまな形状が存在します.ここでは,特徴的な形状とその性質について,簡単に説明していきます(図9).

  • インレイ型
    • RFIDのチップ+フィルム上に形成されたアンテナを,何も加工していない状態です.最も安価で,形状も薄いため扱いやすい点が特徴です.一方,衝撃や汚れに弱いため,貼り付けるモノや場所には注意が必要となります.
  • ガラス・樹脂封入型
    • RFIDのチップ+アンテナをガラスや樹脂に封入した状態です.インレイ型と比べると価格は上がりますが,衝撃や汚れに強く,悪環境下での利用に適しています.
  • カード型
    • RFIDのチップ+アンテナを,カード型のプラスチックや樹脂に封入した状態です.衝撃に強く,持ち運びやすいため,主に認証用のIDカードや電子チケットなどに利用されます.
  • 金属対応型
    • RFIDタグは,基本的に金属と密着した状態では,正常に通信を行うことができません.金属対応型タグは,非導電体(フェライトなど)をタグの背面にはさみこんだり,金属面と距離をとることで,金属面にそのまま貼り付けても動作可能なタグです.

図9: さまざまな形状のRFIDタグ

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5.読み込み・書き込み機能

RFIDタグには,タグが読み取り専用か,書き換え可能かという点について,「リードオンリー」,「ライトワンス」,「リード・ライト」という,主に三つの種類が存在します.リードオンリータグは,その名の通り読み込み専用で,タグに情報を書き込むことはできません.64〜128bit程度のIDをメモリに内蔵しており,上位システム(コンピュータなど)で特定の情報とリンクする使い方が一般的です.利用方法は多少制約を受けますが,タグのコストは最も安くなります.ライトワンスタグは,一度だけ書き込みを行うことができるタグです.主に,メーカーなどで工場出荷時に特定のIDや関連情報を書き込む使い方をされるようです.リード・ライトタグは,何度でも書き込みができるタグです.タグには数10バイト〜数10Kバイトのメモリが搭載されており,タグのIDだけでなく,関連情報などを随時書き込むことが可能です.

なお,タグに情報を書き込む際には,読み込む際と比較して,かかる時間はより長く,通信距離はより短くなります.これは,タグに内蔵されているメモリ(EEPROM)が,読み込みより書き込みのほうが時間がかかり,高い電力を必要とするためです.

これらのタグの種類も,RFIDをどのような目的に使うかに応じて使い分けられます.たとえば,電子マネーなどの分野においては,タグ自体にも残高などの情報を持たせ方が都合が良いため,リード・ライトタグが適しています.一方,物流分野などでは,タグのコストを重視し,リード・オンリータグを採用することも多いようです.

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6. 暗号化

一部のRFIDタグには,暗号化を行う専用のチップが搭載されており,IDやメモリの内容を暗号化して,安全に通信できる仕組みが実現されています.こうした暗号化機能は,Suicaに代表されるような電子マネー用途のRFIDタグにとっては,安易な情報の読取/書替えを防ぐという点で重要となります.また,コラムで議論しているプライバシー問題の対策としても暗号化機能は期待されています.一方,暗号化機能を搭載するとタグ自体のコストが上がるため,物流業界などでは必ずしも導入に積極的ではないようです.

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