RFIDを使ってみよう 概要編(3) 〜RFIDの展望〜
作成日: 2005/1/19  最終更新日: 2005/11/2



概要

このページの内容は,Software Design 2004年11月号 pp.88-99に掲載された, 「RFIDを使ってみよう 概要編」をHTML化したものです.分量が多いため,三つのページに分割してあります.本文中の「現在」などは「2004年9月」を指します.

ここでは,RFIDの展望として,RFIDの関連技術や応用例などについて説明します.

目次
 





RFIDの展望
1. RFIDの関連技術

ここでは,RFIDの関連技術について紹介します.RFIDの基本的な特性は,タグを貼り付けた「モノ」の認識を行う技術です.一方,多数のタグを一定間隔で道路に埋め込み,人がリーダを持ち歩けば,「位置」を認識する技術としても利用可能です.ここでは,「モノ」の認識技術と「位置」の認識技術という視点から,RFIDの関連技術について紹介します.

まず,モノの認識を行うための関連技術としては,バーコードや画像処理による物体認識があげられます.ここでは,最も幅広く普及している技術であるバーコードについて紹介し,RFIDとの比較について取り上げます.バーコードの種類は,「一次元コード」と「二次元コード」に大きく分けることができ,さらにそれぞれについて複数の規格が存在します(図10).

一次元のバーコードは,最大でも数十バイト程度の容量しか扱うことができませんが,現時点では最も幅広く普及しているIDシステムであり,書籍やCD,情報機器など身の回りの様々な製品に標準添付されています.一次元のバーコードの代表的な規格としては,市販のほとんどの書籍につけられているISBN( International Standard Book Number)や,米国製のCDやDVD,電化製品などに利用されているUPC( Universal Product Code),ヨーロッパや日本製のCDやDVD,ゲームや電化製品などに幅広く利用されているEAN(European Article Number) /JAN(Japanese Article Number)などがあげられます.

二次元のバーコードは,一次元バーコードよりも扱えるデータが大きく,最大数Kバイトの容量を持ちます.一次元バーコードほど幅広く利用されているわけではありませんが,最近はカメラ搭載携帯電話が二次元バーコードリーダとして機能するようになったこともあり,二次元バーコードを使った新しいサービスが登場しつつあります.たとえば,週刊誌の店舗紹介記事などに二次元バーコードが載せられるようになったり,任意のURLを短縮し,二次元バーコードとして印刷できるサービス(QRL.jp)も登場しています.二次元バーコードとして代表的なものは,デンソーにより開発されたQRコードなどがあげられます.

RFIDと比べた場合のバーコードの最大の特徴は,作成にほとんどコストがかからず,個人でも簡単に印刷することができる点です.一方,バーコードに対するRFIDの利点としては,(1)電波で離れた位置(最大5m程度)から情報を取得できる,(2)電波の届く範囲なら間に障害物があっても通信可能,(3)一度に複数のタグを認識できる(アンチ・コリジョン機能を搭載する場合),(4)タグ情報の書込みができる,(5)タグのメモリ容量が多い(最大数10kバイト),(6)汚れや傷に強い,(7)暗号化などの高度な機能を持たせられる,などがあげられます.

このように,コスト以外の点では,RFIDはバーコードに対してさまざまな有利な特徴を持っており,広い範囲の応用可能性を期待させる技術です.

次に,ユーザの位置の認識を行う関連技術について説明します.屋外での位置を取得する技術としては,GPS(Global Positioning System)が一般的です.GPSは三つ以上の衛星を用いて,地表上の位置情報を取得する技術として,既に幅広く実用化されていますが,ビルの谷間や,地下,屋内などでは利用が困難です.そこで,こうした屋内などでの位置情報取得手段として,赤外線や超音波,無線LAN電波などを用いた手法が提案されており,RFIDの利用も検討されています.この場合,(1)一定間隔ごとに地面にタグを埋め込んでおき,ユーザがリーダを持ち歩く場合と,(2)リーダを地面の特徴的な場所(部屋の入り口など)に仕込んでおき,ユーザがタグを持ち歩く場合が存在します.前者の場合は,ユーザの位置をかなり正確に知ることができますが,タグの埋め込みなどにコストがかかり,リーダを持ち歩く煩わしさがあります.後者の場合は,ユーザの大まかな位置を知ることしかできませんが,コストやユーザの利便性の点で有利です.こうしたRFIDを用いた位置情報サービスは,まだ研究段階を出てはいませんが,工夫次第で面白い応用が見つかるかもしれません.

図10: バーコードとRFIDの代表例と特徴
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2. 標準化

次に,RFIDタグの標準化の動向について説明します. RFIDは,当初は各メーカーが独自のプロトコルやID体系を用いて展開してきたため,スケーラビリティに欠け,大規模なシステムでは運用しにくい問題がありました.物流業界などでの大幅な普及が予測されていることもあり,現在,標準化作業が急ピッチに進められています. RFID関連で標準化が進められている要素としては,(1)タグとリーダ間の通信プロトコル,(2)タグIDの共通フォーマットとデータの検索機構,の二種類が存在します.ここではそれぞれの標準化動向について説明します.

@通信プロトコルの標準化

タグとリーダ間の通信プロトコルの標準規格は,国際的な標準化組織であるISO(International Organization for Standardization) により策定されています.現在,既に確定されている規格としては,「ISO14443」と「ISO15693」の二つがあげられます.これらは,ともに13.56MHz帯を利用します. ISO14443は,電子マネーなどセキュリティに高い配慮を必要とする用途を前提としたRFID/非接触ICカードに関する通信規格です.TypeA(ICテレホンカードなど),TypeB(住民基本台帳カードなど),TypeC(仮称,FeliCa規格)の主に三種類が存在します. ISO15693は,商品などのタグとして利用することを前提とした通信規格です.メモリの読み書きなどの基本的なコマンドのみを規定しており,暗号化などのセキュリティ機能は用意されていません.

また,これらの規格に加えて,125k〜135kHz帯,2.45GHz帯, UHF帯なども含めた幅広い無線周波数帯をカバーする「ISO18000」という標準規格の策定も進められています.

AタグIDの共通フォーマットと検索機構

一方,タグIDの標準化を進める機構としては,EPC-GlobalとユビキタスIDセンターが存在します.ここでは,両者の概要やアプローチの特徴について説明します.

EPCglobalは,アメリカの流通コード機関であるUniform Code Council(UCC)社,バーコードなどの標準化団体であるEAN International社によって2003年9月に設立された非営利団体です.MIT内に設立されたAutoID Centerを前身としており,そこで開発された商品コード体系EPC(Electronic Product Code)を軸としたRFID関連の標準化を進めています.EPCは基本的に96bitからなり,各ビットにはバーコードと同じように,メーカ番号や製品番号などのフィールドが割り当てられています.また,タグには暗号化などの高度な機能などを搭載せず,読み取り専用にするなど機能を絞りこむことで,タグの単価をできるだけ下げることを目標としています.このように,EPCglobalでは,RFIDを高度なバーコードとして捉え,製品の製造,流通,販売,リサイクルまでの過程を効率的に管理するための,物流分野に最適な仕様を定めている点が特徴です.こうしたアプローチは米国の企業には好意的に受け入れられており,ウォルマートをはじめとする大手企業が,積極的に実証実験に参加しています.一方,暗号化機能の搭載を想定していないため,プライバシー保護などの観点からの課題が指摘されています.

一方のユビキタスIDセンターは,東京大学の坂村健教授が主催する TRONプロジェクトを中心に,2002年12月に設立された標準化団体です.RFIDを「モノ」を自動認識するための仕組みとして捉え,バーコードの代替に限らず,日常生活のさまざまなシーンで新しいサービスを提供する基盤として活用することを想定しているようです.基本となるIDは128bitからなる「ucode」を利用します.ucodeの割り当て方法については議論が続いており,IDが発行される時間や場所などを基にして,IDを自動生成する手法なども検討されています.また,ucodeの体系は,通常のRFIDタグに限らず,CPUを搭載した暗号化タイプのタグや,既存のバーコードまでも包括するようになっています.このようにして,RFIDタグのさまざまな応用を見込んで,タグ体系のスケーラビリティを高めているのが特徴です.

一方,IDから対応する情報を検索するフレームワークについては,両者とも似通っています. EPCglobalにおけるフレームワークの構成要素は,1.Savant,2.PML(Physical Markup Language),3.ONS(Object Name Service)の三点です.Savantは,RFIDリーダ/ライタに接続されたシステム上で稼動するソフトウェアです.PMLは,IDに関連付けられた情報を提供するサーバーです.ONSは,特定のIDに関する情報を提供しているPMLサーバを判別する,DNS(Domain Name Server)のような役割を持ちます.

実際の処理の流れとしては,Savantは特定のIDを認識すると,ONSサーバーにそのIDの情報を管理しているPMLサーバーのアドレスを問い合わせます.そして,その結果得られたアドレスのPMLサーバーにアクセスし,IDに対応した適切な情報を引き出すことができます.ユビキタスIDセンターのフレームワークでは,構成要素の名前が,1. ユビキタスコミュニケーター,2.製品情報サービスサーバ, 3.ucode解決サーバとなりますが,それぞれの役割はほとんど同一です.

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3. RFIDの応用

第1節で述べたように,RFIDには,さまざまな応用可能性が存在します.ここでは,RFIDの応用が期待される分野について,(1)物流,(2)認証・電子マネー,(3)ユビキタス・コンピューティングの三つの視点から紹介していきます.

(1)物流

物流や小売分野への応用においては,RFIDを高機能なバーコードとしてみなし,物流業務を効率化することが最大の目的とされています. RFIDを導入することによる具体的なメリットとしては,以下のような点が挙げられています.

 物流過程での活用
  1. 一般に,アパレル業界などの物流課程では,工場出荷検品→アパレル会社の物流センターで入荷検品→小売店向けに仕分けして出荷検品→小売店で入荷検品,というように,検品を何度も繰り返します.現状ではこうした入出荷作業のほとんどを,一個ずつ目視やバーコードスキャンで行っているため,大きな人手を必要としています.RFIDを導入することで,こうした入出荷作業の時間を大幅に短くすることができ,人為的なミスも減少することが期待されています.
  2. 一方,生鮮食品の生産者や生産日時を手軽に確認できる「トレーサビリティの確保」の目的で,RFIDを利用する動きも進んでいます.BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザの発生により,食の安全に対する消費者の興味が高まってきているため,ニーズのある応用といえそうです.現在,契約農家や仲卸業者,小売店などを巻き込んで,さまざまな実証実験が行われています.
 小売店での利用
  1. 商品にタグを貼り付け,陳列棚にリーダを取り付けることで,特定の商品が棚から外された(=手にとられた)ことを検出することが可能です.具体的な例としては,特定のCDを手に取ると,棚につけられたディスプレイに関連するビデオクリップが表示される,といったプロモーション用途や,実際には売れていないが,手にはとられている(=売れる可能性がある)商品を探るためのマーケティング用途,一度にたくさんの商品が持ち出された場合に警備室に警告を発するといった万引き防止用途が考えられています.
  2. 商品にタグを取り付け,レジにリーダを取り付けることで,カートから商品を取り出さずに清算ができる「自動チェックアウト」の実現が期待されています.ただし,実際にはタグの認識率を100%にすることは難しいため,なんらかの運用上の工夫が必要になります.たとえば,カートにもリーダを取り付けておき,カートに商品が追加されるたびにタグIDを記録し,レジに転送して照合を行う,などの工夫が考えられます.

こうした物流分野での応用は市場規模が非常に大きいことから,特にIT業界からは大きな注目を集めており,さまざまな実証実験などが行われるなど,活発な動きが続いています.

(2)認証・電子マネー

認証や電子マネーの分野では,JR東日本のSuicaやJR西日本のICOCA,ビットワレットの展開するEdyなど,すでに実用化されているRFIDシステムが複数存在します.これらは,乗車券と電子マネーの役割をかねていたり,小額決済が手軽にできるといった特徴から,現在急速に普及しています.ここでは,最も幅広く使われているSuicaについて説明します.

Suicaは,JR東日本が2001年11月に開始した電子チケット(乗車券)サービスです.2004年3月からは,駅周辺の売店などでの支払いにも利用できる電子マネーサービスとなりました.Suicaは開始後二年強で800万以上のユーザーを獲得しており,現時点では日本で最も普及しているRFIDシステムといえます.

SuicaはSonyのFeliCa規格を利用しています.FeliCa規格は,最大212kbit/秒というRFIDシステムとしては比較的高速な通信ができる反面,通信距離は最大10cm程度となっています.これは通信距離を抑えることで,意図しない電子マネーの利用や,悪意あるユーザーからの覗き見を防ぐ効果を持っています.また,データは暗号化されているため,第三者が容易に読み込み/書込みを行うことはできません.

Suicaでは,基本的には自動改札機や売店に設置されたリーダ/ライタ部にSuicaカード(タグ)を近づけることで,電子的な支払い処理(残高読み込み/残高書き換え)を行います.加えて,乗車券として利用した場合は数10件程度までの経路履歴もカード内のメモリに書き込まれます.入金時は,券売機内のライタを用いて一定の金額を入金(書き込み)します.

今後,携帯電話にもSuicaやEdyの搭載が進められる動きもあり,電子マネー分野の応用も確実に浸透していきそうです.

(3)ユビキタス・コンピューティング

ユビキタス・コンピューティングとは,1991年にXerox PARC(Palo Alto Research Center)のMark Weiserによって提唱された,多数の,しかも多様な形態の情報機器群が有機的に協調しあう未来のコンピューティング環境のビジョンです.ユビキタス環境では,単に多数のコンピュータが存在するだけではなく,コンピュータが環境の中に溶け込み,ユーザに意識されなくなるという点が重要になります. RFIDは,こうしたユビキタス環境を実現するための基盤技術の一つとしても期待されています.たとえば,実世界の書籍,文房具,CDなど,これまで情報機器とはあまり縁のなかった日用品にIDを割り当てることで,仮想世界の情報と実世界のモノとの間にリンクを貼り,新しいサービスを提供できる可能性があります.同様に,ユーザにタグを持たせ,各部屋の入り口にリーダを置いておけば,家庭内のユーザーの位置に応じたサービスを提供することが可能になります.

こうしたユビキタス環境を想定したサービスは,現段階では実用化にいたっているものはほとんどありませんが,他の応用分野以上に,私たちの生活の質を変化させる可能性を持っています.ここでは,RFIDを用いて新しいサービスやインタフェースの形態を提案しているプロトタイプや研究事例などについて,いくつか紹介したいと思います.

ソニーCSLの暦本氏らが提案するDataTilesでは,RFID タグを内蔵した複数のタイルと,机に内蔵したリーダ,及びタッチディスプレイから構成されるシステムです.各タイルを組み合わせて配置することで,家電機器の操作やメールの送信,画像の編集など,さまざまな操作を実現することが可能です.

筆者らが提案するMouseFieldは,RFIDリーダと移動量を検出する光学センサを組み合わせた装置です(図11).タグを内蔵した日用品をMouseField上に置いて,それを動かすことで,さまざまな操作を行うことが可能です.たとえば,タグを内蔵したCD ジャケットをMouseFieldの上に置く/取り除くことで,そのアルバムの曲を再生/停止することができます.さらに,ジャケットを前後にスライドさせることにより曲目を選択したり,回転させることにより音量を操作するといった柔軟な操作ができる点が特徴です.

インタラクション技術としてみた場合,RFID単体では単純なモノの認識しかできないのですが,こうした例にみられるように,さまざまな入力・出力技術をうまく組み合わせることで,面白い応用事例が生まれてくることが期待できます.

図11: MouseFieldの外観と操作例
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4. RFIDの課題

今後,RFIDタグが全ての製品などに搭載されるようになった場合,プライバシ保護が大きな問題となると考えられています.ここでは,懸念されているプライバシの問題について,簡単に説明します.まず,第一の問題点として,バッグなどに入れている持ち物のIDを,所有者が気づかないうちにスキャンされる可能性があげられます.もしタグIDに,商品コードを含めたコード体系を採用されている場合,所有している製品名などが容易にわかってしまいます.この問題については,タグに暗号化技術を組み込むことで,解決することができます.タグにIDを暗号化して格納し,ネットワーク上のサーバーで復号鍵を管理した上で,特定のリーダ/ライタからのみサーバーにアクセスできるようにしておきます.このように,タグIDを暗号化しておけば,第三者がこっそりIDを読み取っても,商品情報などを復号することはできなくなります.

もう一つの問題点としては,特定の持ち物のID(群)と個人情報を結び付けられる可能性がある点があげられます.RFIDリーダが街のさまざまなところに設置されていれば,いつも同じIDの組み合わせを持ち歩いている人物を,特定の個人として追跡できてしまう可能性が出てきます.この問題点は,タグに暗号化技術を組み込むだけでは対処することができません.IDを暗号化していても,読み取られるデータ(暗号化済みID)は常に同じものになるため,特定のデータの組み合わせを持つ人を,個人として追跡することは可能です.たとえば,ある財布とカバンを持つ人と,特定の個人情報が何らかの形で結び付けられた場合,財布とカバンの暗号化済みIDを読み込むだけで,個人を追跡することができてしまいます.こうした問題の解決方法としては,(1)購入したときにタグをはずせるようにする,(2)出力される暗号化IDを毎回変化させるなど,高度な暗号技術を乗せる,(3)キル・タグ(タグを無効化できるフラグ)を利用してユーザが任意にタグの機能を無効化できるようにする,などが提案されていますが,まだ完全な対処方法は見つかっていないようです.

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5. まとめ

今回の記事では,RFIDの基本的な概念,技術的要素,その応用可能性や課題などについて,幅広くまとめてきました.次回以降は,RFIDシステムを実際に読者が手元で試せる形で紹介し,RFIDを用いたシステムの開発手順などについても説明していく予定です.

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