RFIDを使ってみよう (135kHzアンテナ編)
作成日: 2004/4/12  最終更新日: 2005/1/18



◆概要

RFIDシステムの利用目的によって,タグを読み取らせたい範囲は変わってきます.タグの読取範囲を調整するには,基本的には自分でアンテナを製作する必要がでてきます.ここでは,準備編基本編で紹介してきたTexas Instruments(以下TI)製のS2000 MicroReaderを例にして,低周波RFIDリーダーのアンテナの設計方法について紹介します.また,その際に必要となるインダクタンスやQを計算するプログラムも公開しています.




◆RFIDのアンテナの設計

TI S2000 MicroReaderは134.2kHzの低周波数帯を利用する低周波リーダーです.
このリーダー用のアンテナは,コイルと同じ構造でシンプルなものですので,自作も比較的容易です.図1,2に評価キットに添付されているアンテナ(直径約8cm)と,その内部構造を示します.

図1 評価キット添付のアンテナ

図2 アンテナの内部構造
(コイルが接着剤で固定されている)

マニュアル(p37-38)によると ,アンテナの設計に当たって注意すべき点は以下の三点です.

  1. サイズ
    200mm × 200mm 以下(推奨)
  2. インダクタンス
    46uH〜48uH以内
  3. Q Factor(品質係数)
    20以下

アンテナのサイズについては,このサイズ以下にアンテナの大きさ(直径)を抑えるようにすれば大丈夫です.ここでは,インダクタンスとQの計算方法と,手軽に計算が行えるCGIプログラムを紹介します.

インダクタンスとQのより詳しい解説については,参考URLも参照してください.




◆インダクタンス

インダクタンスの計算式は,以下のようになります.

L = k * u * S * n2 / l
  • L = インダクタンス(H)
  • k = 長岡係数
    • コイルの直径[d]と長さ[l]から係数表により計算.係数表はこちらなどに紹介されている.
  • u = 真空の透磁率 * 比透磁率
    • 真空の透磁率 は4π * 10 -7
    • 比透磁率はコアの素材により変更.空気 ≒ 1.0
  • S = コイルの断面積
    • 円形のコイルの場合は,π * r2
    • r = コイルの半径
  • n = コイルの巻き数
  • l = コイルの長さ
    • 線材の太さ[w] * コイルの巻き数[n]

次に,必要なインダクタンスを47uHとした場合の,コイルの製作手順について説明します.
まず,以下の二つの要素を決定します.

  • 線材の太さ (0.2mm 〜 0.4mm程度)
  • コイルの大きさ(直径) (200mm 以内)

次に,コイルの巻き数を決定し,くるくる巻きます.巻き数は上記の計算式から導けますが,いちいち手動で計算するのは面倒なので,「インダクタンスから巻き数」,および「巻き数からインダクタンス」を計算できるCGIプログラムを作ってみました.

以下に簡単な使い方を紹介します.

  1. 「線材の太さ」をmm単位で入力します.
  2. 次に,コイルの形状を「円形」か「長方形」から選択し,円形ならコイルの直径を,長方形ならコイルの縦横の長さをmm単位で入力します.
  3. さらに,計測の対象に応じて,「計算モード」を選択し,「インダクタンス」か「巻き数」のどちらかのデータを入力します.
  4. 最後に,「計算」ボタンを押せば,結果が表示されます.
 
※必ず入力
 線材の太さ:   mm    
 
※コイルの形状(どちらか選択&入力)
円形 長方形
 コイルの直径:   mm コイルの幅:   mm
    コイルの高さ:   mm
 
※計算モード(どちらか選択&入力)
インダクタンスから巻き数を計算 巻き数からインダクタンスを計算
 インダクタンス:   uH 巻き数:  
 
※必要時のみ入力
比透磁率:   (空気 = 約1.00)
 
※その他(入力不要)      
コイルの長さ:   mm 長岡係数:  
 



◆Q Factorの計算

Q Factor(品質係数)の計算式は以下のようになります.

Q = (2π * F * L) / R
  • F = 周波数(Hz)
  • L = インダクタンス(H)
  • R = 抵抗(Ω)

S2000 MicroReaderのアンテナを設計する場合,周波数は134.2kHzとなります. あとはコイルのインダクタンスと抵抗値を計測することで,Q Factorを導くことができます.Qは周波数とインダクタンスが固定の場合は,抵抗値が低いほど高くなります.

こちらの計算はインダクタンスほど面倒ではありませんが,「抵抗値からQ」,および「Qから抵抗値」を計算できるCGIプログラムを作ってみました.

以下に簡単な使い方を紹介します.

  1. 「周波数」「インダクタンス」を入力する.
  2. 計測の対象に応じて,「計算モード」を選択し,「抵抗」か「Q」のどちらかのデータを入力する.
  3. 「計算」ボタンを押すと計算を行い,結果を表示する.
 
※必ず入力
 周波数   KHz  インダクタンス:   uH
 
※計算モード(どちらか選択&入力)
抵抗値からQを計算 Q(品質係数)から抵抗値を計算
 抵抗:   Ω  Q(品質係数):  
 



◆インダクタンスの計測

前述のように,低周波RFIDリーダーのアンテナの設計方針(コイルの直径と巻き数など)は計算によって求められますが,より感度を高めるためには,作成したアンテナのインダクタンスを計測して,調整を行う必要があります.

インダクタンスの計測には,LCRメーターという測定器が必要になります.(比較的高価なテスターでもインダクタンスは測定できないものが多いようです.)

LCRメーターは安いものでは1万円程度からありますが,このランクでは分解能が1uH程度のものが多く,uH単位の計測では精度的に不安があります.3〜5万円程度の価格帯では0.1uH程度の分解能を持つものがありますので,そのクラスを使ったほうがよいと思います.図3に私の持っているLCRメーターの外観を示します.最小分解能は0.1uHで,秋葉原の東洋計測器で約4万円で購入しました.(これより上位の機種になると,据え置き型の20万以上のものになってしまうようです.)

図4に,LCRメーターを用いて,コイルのインダクタンスを計測している例を示します.このコイルの仕様は,以下のようになっています.

  • 線材の太さは0.4mm
  • コイルの直径は約120mm
  • コイルの巻き数は10回

このデータをもとに,上述のCGIプログラムでインダクタンスを計算すると,32.01uHとなります.LCRメーターの測定結果は32.7uHとなっていますので,0.5uH程度の誤差はありますが,おおむね正しい値であることが確認できます.

図3 Custom製 LCRメーター

図4 LCRメーターの計測例




◆おわりに

ここでは,TI S2000 MicroReaderを例にして,低周波RFIDリーダーのアンテナの設計方法について紹介してきました.評価キットに標準で添付されているアンテナだけでは,RFIDシステムの利用範囲が限定されてしまいますので,このページで紹介したCGIプログラムなどを参考に,いろいろな大きさのアンテナを作ってみると面白いと思います.

13.56MHz帯などのより高い周波数帯のアンテナ設計については気を使うことがかなり多くなりますが,将来的に取り上げてみたいと思います.(13.56MHz帯のアンテナ製作については,13.56MHzアンテナ編にて公開しました.)




◆参考URL


[RFIDぶらり旅]

[デバイスふらり旅]